・読み下し文
(中略)
一、楠葉新右衛門語りて云わく、去る月十八日夜、室町殿の御夢に普廣院殿、束帯にて御枕に立たしめ賜いて云わく、吾存生の時、罪を犯すことこれ多きにより、受苦の事、一に非ず。しかるに又善事を沙汰することも多端。これにより重ねて将軍を生かすべきものなり。それにつき只今、乞食多く以て餓死に及ぶ。吾、苦を助けべくんば、かの乞食に施行をして悲しみを助くべきかの由、分明に申あると覚えて御夢覚め了んぬ。これにより願阿という者に仰せ付けられ、六角堂の辺りに一町分の渡り屋を立てられ、乞食を悉く入れ置かれ、大釜をあまた塗られ、雪水をして毎日これを引かる。日々分千五百疋、夏時分に至るまで、御沙汰あるべしと云々。有り難き御夢想なり。廣大の御利益にあらずや。尊ぶべし尊ぶべし。
(作成:高木徳郎)